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【芸能の継承と地域づくり5】稲嶺伝統芸能保存会

2020/3/26公開

沖縄の魅力のひとつとして、エイサーや大綱曳きに代表されるように、地域ごとに固有の芸能やお祭りが豊かであることがあげられます。後継者不足に悩む声が各方面から聞こえてくる昨今ですが、ただかっこいい、美しいというだけではなく、その営みが人と人とをつなげる役割を担い、地域を支えているからこそ、今もなお受け継がれているのではないでしょうか。本シリーズでは、芸能の継承を通して地域づくりを行なっている地域の方にお話を伺い、その取り組みをご紹介していきます。

今回は、沖縄本島の南に位置する南城市大里稲嶺(いなみね)の稲嶺伝統芸能保存会の活動にスポットを当て、新垣盛広さんを中心とした保存会のメンバーの皆さんにお話を伺いました。

稲嶺伝統芸能保存会のみなさん

稲嶺伝統芸能保存会の会長を務める新垣盛広さんの呼びかけで、集まってくださったメンバーの皆さん。幼少期から稲嶺に生まれ育ち、それぞれの想いを胸に、伝統ある祭祀や芸能の保存継承に取り組んでいます。

—稲嶺伝統芸能保存会はどのような活動をされているのですか

区内の祭祀やイベントはもちろん、最近では首里城での演舞や他の地区のイベントからも出演依頼があります。毎月2回の定例会があり、そこで稽古や会の運営に関するミーティングをしています。イベントが近くなると日程調整をして、いつもより多めに稽古をします。

地元での主な行事は3つあり、まずは旧盆(旧暦のお盆)3日目の旧暦7月15日に行われる「ウークイ綱」。道ジュネーに始まり、「舞方棒(メーカタボウ)」と呼ばれる棒術のほか、獅子舞の演舞や綱曳があります。次に、旧暦8月13日〜15日にかけては「十五夜遊び」があり、こちらも道ジュネーに始まり、3日間かけて獅子舞や舞方棒、琉球舞踊が演じられます。「獅子ぬうとぅいむち」という言葉があるくらいですから、獅子は地域にとって特に重要な存在で、無病息災や火ゲーシ(火災予防)の守り神として祀られています。「うとぅいむち」とはおもてなしという意味です。

そして、1月中旬頃には生まれ年で13、61、73、85歳の人をお祝いする「生年祝い」があります。私たちはみんな「トゥスビースージ」と呼んでいます。「長者の大主(チョウジャヌウフュシュ)」の幕開けで始まり「チキンコールー小(グヮ)」と呼ばれる男女踊りや「稲(イニ)しり節」などが演じられますが、中でも最後を締めくくる「松竹梅鶴亀」という踊りは、毎年おじいおばあが楽しみにしていて、稲嶺のトゥスビースージには欠かせない演目です。

十五夜遊びで演じられる「舞方棒」

生年祝いで演じられる「チキンコールー小(グヮ)」

—年間を通してたくさんの行事があるのですね。近年では、地域の芸能の後継者問題を抱えているところもあるようですが、稲嶺ではそのような課題はありますか

実際に後継者が少なくなっていると感じる時はあります。私が青年の頃は、車を持っている人が少ないからこの地域で遊ぶしかなかったんです。子供の頃から「僕もあの舞台に出るんだ」とか、「あの演目をやるんだ」という思いを持っていました。いつも公民館で先輩たちが楽しそうにしているのを見て、「自分もあの中に入りたい!」とも思っていたけど、最近はそれ以外に楽しいことはいっぱいあるでしょうから、なかなか人が集まらない時もあります。

過去には、踊り手不足のために、生年祝いで松竹梅鶴亀ができなかった時がありました。その時は会場がざわついて…おじいおばあがとても悲しそうな顔をするんです。今でもあの寂しげな顔は忘れられないし、あれから稲嶺の生年祝いで松竹梅鶴亀をなくすことは絶対にできないと思いました。

生年祝いで演じられる「松竹梅鶴亀」

—後継者不足の解消や芸能の保存継承のために、取り組んでいることはありますか

南城市立大里中学校とPTAが中心になって開催している、「ふるさと伝統芸能まつり」では、生徒たちが夏休み期間中に、中学校区内の24行政区や自治体にそれぞれの伝統芸能を学び、発表します。稲嶺伝統芸能保存会も毎年積極的に協力し、三線・かぎやで風・舞方棒・獅子舞を教えていて、去年で24回目を終えました。以前より中学生とのつながりが増えていることを実感しています。

また、稲嶺伝統芸能保存会主催で、バーベーキューや大忘年会を開催しています。ふるさと伝統芸能まつりで関わった生徒たちや高校生、稲嶺に住んでいるけれど日頃はあまり関わりを持っていない人たちにも声をかけて、親睦をはかっています。人と人とのつながりが、伝統を守ることにつながっていくと信じて、これからもこのような取り組みは続けたいですね。

—仕事や学校などのご自身の生活もある中で、保存会の活動に一生懸命に取り組めるのには、何か理由があるでしょうか

今も残っている伝統を守るのは大変だけれど、無くなったものを復活させるのはもっと大変だと思います。なにより、先輩たちが残してきたもの、自分たちが守ってきたものを、子供たちにも見せてあげたいんです。これが無くなったら、稲嶺が稲嶺で無くなるというか…寂しくなってしまいますからね。保存会の活動を通じて伝統芸能を守るということは、稲嶺のアイデンティティを守ることでもあるのでしょう。

このような活動を大切にすることによって、地域内での縦や横のつながりや絆は固く、確かなものになっていると実感します。また、老若男女のふれあいや子供達の非行防止、健全育成と地域にとってはメリットしかありません。

そして一番の理由は、自分たちが楽しいことです。もちろん、難儀なこともあるけれど、自分の周りにたくさんの仲間がいるということを再確認できるし、自分自身の学びになることもたくさんあります。これからも稲嶺伝統芸能保存会の活動に精を出して頑張りたいです!


「伝統芸能は、地域の人々にとってふるさとである」とおっしゃる新垣盛広さん。故郷から遠く離れたとき、何か大きな壁にぶつかったときに思い出すあの音や踊りは、稲嶺の美しい景観のひとつであると教えてくれました。「ウークイ綱」「十五夜遊び」「生年祝い」のどれも一般公開されているので、外部の人でも見学できるそうです。「振る舞い酒を用意して待っています」とおっしゃる稲嶺伝統芸能保存会の活動、ぜひチェックしてみてください!

<取材協力>
稲嶺伝統芸能保存会
新垣盛広さん・新垣智さん・新垣裕さん・新垣弘司さん・新垣勝さん・新垣優弥さん・知念潤太さん


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