【芸能の継承と地域づくり3】読谷村渡慶次区の子ども獅子舞クラブ
2020/3/11公開
沖縄の魅力のひとつとして、エイサーや大綱曳きに代表されるように、地域ごとに固有の芸能やお祭りが豊かであることがあげられます。後継者不足に悩む声が各方面から聞こえてくる昨今ですが、ただかっこいい、美しいというだけではなく、その営みが人と人とをつなげる役割を担い、地域を支えているからこそ、今もなお受け継がれているのではないでしょうか。本シリーズでは、芸能の継承を通して地域づくりを行なっている地域の方にお話を伺い、その取り組みをご紹介していきます。
今回は、読谷村の西海岸沿いに位置する渡慶次(とけし)区の子ども獅子舞クラブの活動に焦点を当て、人の思いやりであふれる村づくりにはげむ、区長の小橋川清史さんにお話を伺いました。幼少期から渡慶次区に生まれ育った小橋川さん。幼い頃に盛んだった子ども獅子舞クラブを復活させたいという想いから、自身が区長を務めた同年に、渡慶次で育った仲間たちと休会していたクラブの活動を再開させたとのこと。「人を思いやる心づくり・村づくり」をスローガンに人の集まる公民館を支えています。
—子ども獅子舞クラブはどのようなきっかけで発足されたのでしょうか?
そもそも渡慶次の獅子舞の歴史は、およそ250〜270年前にさかのぼります。古くから守り神として崇められ、無病息災を願い、獅子が舞うことで邪気を払うと考えられてきました。
通常は、先祖代々伝わる獅子を青年男子が演じます。しかし、年々後継者が減っていくことを実感し、その担い手を育てるという目的で1993年に「子ども獅子舞クラブ」を立ち上げました。2009年〜2014年は活動できず休会していたものの、2015年より再結成。現在も、後継者育成のために活動していますが、何より地域の人たちが喜んでくれます。出演する子どもの両親はもちろん、おじいおばあは、子どもが頑張っている姿を見るだけで嬉しそうですよ。演じている本人たちも「獅子舞をやったらみんなが喜んでくれる!」と実感することで稽古も頑張ってくれるし、伝統を大切にしてくれます。

小橋川清史さん
—県内では他にも獅子舞を継承する地域がありますが、多くは20歳前後の青年会に所属する人々が演じられていることと思います。クラブでは、子どもが演じるための工夫や取り組みがあるのでしょうか?
獅子舞は2人で1つですから、息が合わなければ動作が成り立ちませんし、アクロバティックな技は体力的にもハードです。なので、演舞しやすいように本来の伝統的な型を少し改良して教えています。子どものパフォーマンスとはいえ、肩車をして高い位置から見下ろす技は圧巻です。また、演舞の中ではお客さんの近くを練り歩くこともあります。特別な指示はしていないのですが、彼らは見ている人に噛み付くふりをしたり、絡みにいったりと自分たちで考えて人を喜ばせようとするんです。子どもが自発的に行動することを学べるのもクラブの良いところですね。
1年を通して、区内でおこなわれる十五夜や敬老会、大きなイベントである読谷まつりなど約20公演に出演します。2019年9月には、ハワイで行われる沖縄県人会主催のイベントに参加しました。海外公演とあって指導にも熱が入り、普段は週1回行なっている稽古も、週に2、3回とみっちり稽古を重ねました。たくさん修練した結果、本番はスタンディングオベーション!拍手を受けた子どもたちの姿は、大人の階段を登っているようでたくましく、カッコ良かったです。

ハワイでの演舞後
—多くの場面での感動や地域づくりに子ども獅子舞クラブの活躍が見えますね。そんなクラブも一時は休会していたとのことですが、なにか理由があったのでしょうか?
それまでの指導は、昔から獅子舞に携わる大先輩が1人で行ってきました。周りの大人はそれ以外のサポートをしていたのですが、指導者が高齢になると指導自体ができなくなり、クラブは続けられなくなりました。しかし、それではいけないと「子ども会育成会」を中心に、2015年に再度立ち上げることにしたのです。これまでのように1人が教えるのではなく、同じような指導を誰もができるように指導者の講習会も行ったり、グループ分けして指導したりすることで、指導者たちの学びにもなりました。
再結成した後、はじめの1、2年は大変でした。まず子どもを集めなきゃいけないですし、何より多くの大人の力が必要でした。クラブの事務局のお手伝いや稽古中の子どもたちへの声かけなど、どんな形でもみんなで協力して子どもたちをサポートする環境を作りたかったんです。
公民館の送り迎えだけして帰られる親御さんにも、少しでも関わっていただけるように、練習が終わった後に、みんなで焼肉パーティーという名の懇親会をしたり、少しずつ大人同士も触れ合って積極的にコミュニケーションを取り合いました。その結果、今では子どもの保護者も指導のサポートをしたり、壊れた獅子舞を修復してくれたりとそれぞれのできることをやっています。

渡慶次区の敬老会に参加
—いくつもの壁を乗り越えて今の子ども獅子舞クラブがあるのですね。改めて、クラブがあってよかった!と思うのはどんなところですか?また、今後の課題があれば教えてください
クラブのメリットはたくさんあります。芸能を継承し、絶やさないという想いも強くなりますし、伝統を大事にすることは、渡慶次出身というアイデンティティを大切にすることにもつながります。また、子どもたちの健全育成はもちろん、人が集うことで活気もでて、地域活性化にもなっていると実感します。
2015年に再結成した当時に幼かった子どもたちが今では高校生。青年会の獅子舞を演じられる年齢になってきました。本当の意味での本番はこれから…彼らが先祖代々受け継がれる伝統の獅子の中に入り、古くから残る型で舞うために、私たちも全力でサポートしていきたいと思います。

とけしまつりの子ども獅子舞

練習の様子
人々が芸能を育んでいる村は、芸能が人々を育んでいる村。伝統の獅子舞を守るために作ったクラブが地域住民を一つにしていると感じました。村を大切にする想いや誇りを「渡慶次プライド」という言葉に変えて…仲間とともに、村を活気づけたいという小橋川さんの想いが形となって、2015年からまた走り出した子ども獅子舞クラブ。子どもたちの一生懸命でパワフルな演舞を、毎年秋に開催される「読谷まつり」などでチェックしてみてください!
<取材協力>
沖縄県読谷村 渡慶次自治会 自治会長 小橋川清史
読谷村渡慶次公民館:http://tokeshi.ezlog.jp/